2017年度長期派遣奨学生〜王 木易

研究タイトル:
「『ここ/あそこ』について『書く/描く』こと」

氏名:王 木易
奨学年度:2017年度奨学生
奨学区分:長期派遣枠
滞在期間:2017.8.25 – 2018.2.18
滞在先:中国

活動内容:

中央美術学院の博士課程のクラスの一員として、中国現代美術史から西洋美術史に至るまで幅広い学術的な授業を受けた。また社会人クラスの実技授業に参加し、中国画総合材料授業と篆刻、書道の授業を受けた。5ヶ月半という限られた時間だったため 大きな作品を作ることはできなかったが、授業内で小さな版画作品及び篆刻作品を多数制作した。
9月末学内での展示に応募し審査を通り、旧作を展示した。また中国の著名な現代アーティストQiu Zhijie( 邱志杰)の授業に、実験芸術科の学生を通して参加し、聴講することができた。 授業外では798芸術区を始め北京画院など北京市内の多数のギャラリー、美術館、また上海のアートフェア等を巡り、中国のアートシーンをリサーチした。潘家园といった骨董市を毎週末訪れ、文革前後の書籍を買い集めた。自身の博士課程での作品作り、また論文執筆に役立つ材料を多く得ることができた。

気付いたこと、見つかった課題:

中国全体に言えることなのかは分からないが、中央美術学院では人と人とのつながりがなければ参加したい授業にも参加できない状況が続いた。 オフィシャルの窓口が頼りないので、基本的には自分で先生を探し、あるいは学生を通して希望を伝えていくしかない。しかし逆に言えば関係さえできてしまえば他の規則はあってないようなものである。芸大のように先生に会おうと思えば簡単に会える環境ではないのが非常にやりにくかった。教務が取り次いでくれる先生は一部しかない。交換留学は近年から内諾書なしに申請できるようになったが、内諾書がもらえるような環境を事前に作って行った方が色んなことがスムーズに行ったように思う。何も関係を持たずに行くと、関係づくりにまず数カ月かかってしまう。

渡航を経ての今後の制作活動:

生まれた国でありながら、その地の教育を受けたことはなかったので、全ての授業がとても新鮮だった。
日本、中国のどちらかが「良い、悪い」ではなく、その国の傾向や思想を一歩離れたところから眺めることができた。
中国の大部分の教員はとてもロジカルな話し方をする。今までぼんやりと感じてきた、あるいはやってきたことをはっきりと言語化されるのを目の当たりにすることも多く、それは「自分で考える」ことが主流の芸大とは違った体験だった。しかしもし私が学部生だとしたら、言語化されたそれらが「答え」ではなく、ただの指標のひとつに過ぎないとは思えなかっただろう。 今後は北京であつめた資料や材料をもとに自身の作品をより発展させていきたい。また北京での同級生たちと交流展の企画も持ち上がっているので、「ここ」と「あそこ」を繋げていく、そういった活動も積極的に進めていきたい。

本奨学プログラムを利用してみて:

まず、長期の奨学金を渡航前にまとめて頂けたことには感謝しかない。渡航直後、住居環境を整えるのに一番お金がかかるので、毎月決まった額を貰うスタイルでは留学初月は非常に苦しかっただろう。
留学期間内のプログラムを学生主体で決め、特に受け入れ施設の証明書等必要ないのも、行動の自由度を高める重要な要素だったと思う。この度は本当にありがとうございました。

 

渡航スケジュール:
8月25日 成田空港より渡航、北京空港(中国)着。
10月4-5日 上海、龍美術館。彫刻家楊冬白のスタジオを見学。
10月6-10日 蘇州、西湖にて写生
11月16日 在中日本大使館での天皇誕生記念レセプションに出席
10月21-22日 北京怀柔区にて交換留学生の交流
12月9日 中国画家胡石のスタジオを訪問
2月18日 北京空港より帰航、羽田空港着