研究タイトル:
「各地域による住宅の倉庫調査」
活動内容:
オーストリアのウィーン、長野県小布施町とイギリスのロンドンを主な対象として、居住空間と倉庫との関係性についてのリサーチを行なった。
私は現在、物理的あるいは概念的な倉庫をモチーフとして、そこから選別についてや、所有することとその政治性、価値基準に関する社会的規範や状況を参照しながら制作をしており、今回のリサーチはこれに関わるものである。上記内容は生活を行う土地の性質にも作用されることが多く、対話を元にその差異を体感として認識することを今回の渡航の目的とした。
長野県小布施町では親戚の家に滞在し、その居住環境へのインタビューを行うとともに、近隣にある博物館の収蔵庫を見学させていただいた。オーストリアのウィーンでは芸大の交換留学プログラムを利用してウィーン応用芸術大学版画研究室に1セメスター在籍し、ワークショップの参加をしながら現地の人々と交流した。ロンドンでは私の幼少期からの友人宅に滞在し、私の制作に関わる内容以外にも最近のイギリスの政治情勢や、その他ヨーロッパ周辺諸国との関係性について当事者の視点から教えていただいた。
気付いたこと、見つかった課題:
この長期滞在の体験は、今までの私のいくつかの短期旅行の経験といくらか対比させることができたと思う。大抵新しい都市に訪れる時は、新鮮さと興奮が溢れて客観さは持ちにくい。日本で美術を続けることの難しさと西欧への憧れから、そのポジティブな側面ばかりに目が行きがちだが、この長期滞在ではある程度冷静になるに十分な時間があり、いい意味でネガティブな事情も知ることができた。今回のプランで数ヶ月の滞在をしたのはウィーンだけではあるが、現地の人から話を聞いたり実際に生活をしていくうちに、どの国にもある程度問題はあり、状況一つ一つはトレードオフの関係であるということを観光者の視点からだと忘れがちになるということに改めて気づかされた。他の街を実感として学ぶことは、一方で私たちの住んでいる都市を学ぶことでもあり、その客観性を養うためには可能な限り早い段階で一度こういった経験をしておくべきだと感じた。
今までの渡航経験ではどこへ行くにも都市部ばかりで、さらに西欧が中心であったのでまだ偏りが強い。今後はそういった場所以外での機会も作りたいように思う。
渡航を経ての今後の制作活動:
ネットや本で得た情報や人から聞いた話、それらに具体的な解像度を持たせることができた渡航経験であったように思う。それ以前のいくつかの短期滞在では目的をかなり明確に絞って渡航しなくてはいけなかったが、今回の渡航は大枠を決めつつもかなり自由に活動ができ、当初想定していたこと以外の事も学ぶことができたし、いくつかの出会いもあった。この体験は制作においてすぐに効く部分もあるが、これからの長い時間を経て長期的にゆっくりと根本に関わっていくようなものでもあると思う。そのため、私にはまだ具体的にどういった効能があるか確認できない部分も多い。
渡航を経て、そろそろ私の東京芸大での学生期間が終わろうとしているが、修了後に折をみて、より長い滞在によるリサーチを行いたいと思ってる。半年はきっかけとしては良いが、全く十分ではないからだ。
どういった形にしろ、今回の経験のおかげで、より不確定で不明瞭な未来を得ることができるようになると思う。
本奨学プログラムを利用してみて:
石橋財団奨学金は半年以内の海外渡航を(特に周遊プラン)するには最も自由に行動ができる奨学金プログラムであると感じた。場合によってはかなり特殊なプランで応募する事もでき、プランを考えるにあたって自分の制作を見直すきっかけにもなる。本奨学金では、応募者はある程度自身の志向性を明確に示さなければならないが、少なからずゆとりを残す事もできる。ポジティブな意味での優柔不断さを受け入れてくれる懐の広さは渡航中のストレスを軽減してくれ、より自由な創作活動に没頭できるものであったと思う。
2018年
8/17 神奈川県の自宅から長野県小布施市へ
8/31 神奈川の自宅に戻る
9/13–14 成田国際空港よりウィーン国際空港へ
10/1 ウィーン応用芸術大学での交換留学開始
2019年
1/31 ウィーン応用芸術大学での交換留学終了
2/14 ウィーン国際空港からヒースロー空港(イギリス着)
3/3–4 ヒースロー空港より成田国際空港着