研究タイトル:
「タイの芸術文化への理解を深め、交流や表現を通して学ぶ。」
活動内容:
私はタイのシラパコーン大学にて滞在制作をしました。大学近くにアパートを借りてそこを拠点に生活し、大学の絵画専攻のアトリエでタイの学生達に混じりながら制作をして、食事から放課後までいつも一緒に過ごしていました。
また、制作の他にタイ国内外様々な場所を訪れました。タイ中部地方では美術館やギャラリー、観光地的な寺からローカルな寺まで巡り、タイ南部では中国の文化とインドの文化の絶妙な融合を楽しみ、島では南国の自然を全身で感じて制作し、タイ北部では山岳民族の多様性、美術的方面では欧米の感覚を取り込もうという風潮を感じ、東北部では独特なイサーン文化を体験し、隣国ラオスではタイとの共通点と相違点を肌で感じながら過ごしました。
気付いたこと、見つかった課題:
タイに行くのは三回目でしたが、混沌としたタイの街中、あるいは何もない田舎にも建っている金ピカの寺に施された伝統的で華美な装飾からコンクリート製のぎこちない仏像までもがタイ人の厚い信仰の対象であり、そんな思いに溢れた金堂内に鎮座する本尊とそれに向き合うタイ人の醸す空気感は、何度来てもハッとさせられるものがありました。また語学が上達したことで見えてくる景色は断然変わりました。前回までよりも活動範囲が広がり、様々な観点からタイやアジアを観ることが出来ました。そしてタイの友人達が私を稀な客人としてではなく、ひとりの人間として接してくれるようになったことでリアルなタイ人の考えや感覚に接することができました。
渡航を経ての今後の制作活動:
春にも一度シラパコーン大学で滞在制作をしていたのですが、その時に描いた絵に対して周りの学生から「色が薄い」「まだ余白がある」等、日本では考えられないタイプの批評をもらいました。
当初はピンと来なかったのですが、今回の滞在では“タイ人に認められる様な絵”を描いてみようと思いました。いざ自分がそういうものを描こうと思うと次第に本気になり、鮮やかな色合いで!写実的に!画面を埋め尽くしたい!というのが実は本来の自分の欲求の様な気がしました。そして写実には及ばないながらも私の好きな作品が出来ました。それを観ると逆に今まで日本で培ってきた感覚に囚われていた部分もあるのではないかとも思えます。
帰国して今、絵を描く私は次に何を思うのか自分でも気になります。
本奨学プログラムを利用してみて:
このプログラムを利用することで自費ではできないような理想的なプランを建てることができ、そして授与した喜びと責任感から積極的に実行に移すことも出来ました。また石橋財団の奨学生として来ていると伝えることで現地の人からも単なる観光客じゃないと認識してもらえ、より充実した人脈や経験に恵まれたと思います。今後の制作活動にも大きな影響を与える留学だったと確信しています。
|7月|
・羽田空港より渡航。スワンナプーム国際空港着。
・滞在中は、シラパコーン大学サナームチャンキャンパス近くのアパートを借り、拠点とする。|8月|
・バンコクの主要ギャラリーやアートセンター等多数を訪問。
・多数の寺院を取材。
・タイの新入生歓迎行事ラップノーンを目撃。この独特な習慣に興味を持ち、取材を開始する。
・8月11日~16日 タイ南部プーケット県ラチャ島にて滞在・制作。奇祭テッサガンギンジェー(菜食祭)の聖地ジュイトゥイ寺院の取材。
・8月19日からシラパコーン大学サナームチャンキャンパスに登校開始。アトリエにて作品制作も行う。
・シラパコーン大学の学生と交流や共同制作を行う。
・タマサート大学日本語学科のラップノーンに参加。
・JAPAN EXPO見学。|9月|
・8月から引き続きシラパコーン大学にて制作・交流の他、バンコク以外の地域を訪問し取材や見学を行う。
・アトリエにて大きめの油絵制作などを開始。学生の講評会を見学。
・タイ北部チェンマイ県へ。チェンマイ大学および大学美術館を見学。山岳民族モン族と交流。カレン族の家族へ作品を贈る。
・タイ北部ランプーン県へ。地元の方々との交流や寺院巡りを行う。お世話になった方々にシラパコーン大学で制作した作品を贈る。
・シラパコーン大学創始者、シン・ピーラシー生誕祭に参加。
・タイ東北部ウドンターニー県を経由しラオスへ渡航。寺院巡りや、ラオス大学にて学生や教員と交流。
・タイ東北部ロイエット県へ。イサーン文化に触れる。
・タイ中部ナコンパトム県へ。制作再開。
・タイ外務省とマヒドン大学を見学。
・Thai Bank Museum、Museum of Contemporary Art 訪問。
・スワンナプーム国際空港より帰国。
・9月30日 羽田空港着。