2017年度短期派遣奨学生〜高木 彩圭

研究タイトル:
「自然信仰の芸術」

氏名:高木 彩圭
奨学年度:2017年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2017.9.5 – 10.7
滞在先:ドイツ、イタリア、アイルランド、ノルウェー、フィンランド

活動内容:

わたしは古代ケルト人の生み出したケルト美術の、独特の美しさと畏怖を感じる迫力のある表現に興味を持っていました。また、ヨーロッパ圏であるにも関わらず日本美術との親和性も感じたので、ケルト美術の生み出された土地にも興味がありました。
調べると、抽象的な表現に特化した文明をもっていたそうで、同じく抽象的な表現を作品にする自分にとって、そこには学ぶべきものがあると思い、ケルト文化が残るアイルランドへと赴きました。
アイルランドではケルト美術を代表するケルズの書や、ケルトの古代遺跡や居住跡などを巡りました。またアイルランドは、ヴァイキングの影響も強く受けており、調べていくうちに共通する思想や独特の文化などにも惹かれました。
ヴァイキングが発生した地であるというスカンジナビア半島のノルウェーにも行き、複雑な自然環境やそこから生まれる文化を体感しました。

気付いたこと、見つかった課題:

批評においては、主流である西洋美術と比較しての日本美術が語られることが多く、自身も制作する際にその価値基準が強かったです。
しかし今回は自分の興味を持ったケルト美術やヴァイキングの美術など、日本美術との親和性を感じた共通項中心に旅程を組み、自分の視点を洗い出してみました。そして美術館や博物館を巡るだけではなく、その土地の風土を知るために自然環境に着眼して移動しました。
そうすると自然信仰の呪術的な基盤をもつ文化から生み出された表現というものに、自分が芸術を感じていることがわかりました。そしてその視点は現代において、人間が生き物として生きて行くためには重要なことでもあると感じました。風土や思想による文化差という意味でヴェネチアビエンナーレやドクメンタなどの西洋美術の本流を体感して理解できたのも、客観的に自身の作品を見つめる上で貴重な経験でした。

渡航を経ての今後の制作活動:

現地で生の体験ができたことで、自身の価値観が大きく広がりました。アートという世界共通の価値があると思っていたのですが、その土地の風土や文化の違いで生まれてくるものはまったく異なっていて、抽象的に構造化してしまえば同じようなものでも、実際の作品や思想が生まれてきた意味合いは一般化できないものであると思いました。
実感に対しての自我の立ち現れ方は絶対的に個人のものであり、共有化する以前の感覚はとても重要なものであると再認識しました。また、国外を周遊する中で自分の興味やその考察を拾い集めることで、自身の視点が明瞭に分かってきました。
今回の渡航では、自然信仰の呪術的な文化基盤から生まれる芸術と、それらが異文化に触れることによって変容していく過程に興味をもちました。その点について自分の中でもっと解釈を深めると共に、作品という形にしていきたいです。

本奨学プログラムを利用してみて:

とても有益な奨学制度だと思います。

 

渡航スケジュール:
8/9 成田空港 発
8/10 フランクフルト空港(ドイツ) 着、電車でカッセルへと向かう
8/11-12 ドクメンタ14を鑑賞して回る
8/13 電車でミュンスターへと向かう
8/14-15 ミュンスター彫刻プロジェクトを鑑賞して回る
8/16 ドュッセルドルフ空港(ドイツ) 発 / マルコポーロ空港(イタリア) 着
8/17-18 ベネツィアビエンナーレを鑑賞して回る
8/19 マルコポーロ空港(ドイツ) 発 / ダブリン空港(アイルランド) 着
8/20 トリニティカレッジなど鑑賞
8/21 日帰りで北アイルランドを訪れる
8/22 タラの丘など古代遺跡を訪れる
8/23 長距離バスでコークへ向かう
8/24-25 キラーニー国立公園などを訪れる
8/26 ダブリン空港(アイルランド) 発 / オスロ空港(ノルウェー) 着
8/27 民族博物館や美術館を回る
8/28 フィヨルドを鉄道と船で移動しながら、オスロからベルゲンへ向かう
8/29 ベルゲン空港(ノルウェー) 発 / ヘルシンキ空港(フィンランド) 着
8/30-9/1 民族博物館や美術館、教会、スオメンリンナの要塞などを回る
9/2-3 ヘルシンキ空港(フィンランド) 発 / 成田空港 着
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