2018年度短期派遣奨学生〜安原 千夏

研究タイトル:
「映画館に流れる不確かな時間の旅について」

氏名:安原 千夏
奨学年度:2018年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2018.7.25 – 9.24
滞在先:ベトナム、フランス、マルタ、スペイン、ギリシャ、ハンガリー、ドイツ

 

活動内容:

映画館は観客の数時間をトリップさせる不思議な箱だ。映画は旅そのものと似ているのだ。映画館の持つ特殊な場所としての一面に着目し、映画館の発祥の地であり、国内に多数の映画館を持つフランスを筆頭に、ヨーロッパ諸国の現存する様々なタイプの映画館に足を運び実際に映画を観賞し取材(撮影)を行った。また、自身の旅の時間と映画に流れる時間とを平行して体験し、映画館に流れる時間と旅そのものをリンクさせた映像作品の制作を行った。
「映画館に足を踏み入れる前と後に目にする同じ景色が確実に違うということについて」これを今回の旅/プログラムのテーマとした。

気付いたこと、見つかった課題:

朝、夜。夜→夜。朝。一日が伸びたり縮んだりする。今回の旅は、とにかく移動が多かった。大体は飛行機移動。あとは列車、船、徒歩。移動がメイン、移動するための旅と言っても過言ではなかったかもしれない。長時間の移動では、窓から流れ行く美しい景色と、ぐったりした疲労に後押しされるように自然に眠りへと落ちていく。窓からの景色は時に照明としての役割を果たし、なんとなく明るい/暗いで時の流れを感じたりする。地球の自転を早送りしたり、巻き戻したりと時差を実感。短期間で様々な地点を行ったり来たりすると、時間・場所、自分の現在地がよくわからなくなる。飛び交う多言語も相まって、色々なことが不確かなのだ。
搭乗ゲートで乗り物を待っている時と、映画館でスクリーンに光が放たれるのを待ちわびている時の感覚は、やはり似ていた。

渡航を経ての今後の制作活動:

映画に流れる時間と、旅の時間をリンクさせる。あるいは点在させる。それにより、映像という虚構であり夢のような世界へと展開させる。そんなビジョンを描きながらはじめた旅だった。丸2ヶ月間目まぐるしく移動し、滞在は10都市18の映画館(野外も含む)で映画を見た。思い返せば、無数の断片的な記憶がどっと蘇る。けれども同時に、まるで一晩の夢であったかのような錯覚も覚える。
普段の旅行では時間もタイトなため、なかなか現地で映画館に足を運ぶことはない。しかし、旅先での映画体験というのは誰しも経験しているはずだ。とてつもなく長く感じる空の飛行中の限られたエンタメとして。あの体験もなかなかいいものだと思う。どうにか時間を消費するために、フィクション世界に意識を飛ばす。その間に自身の身体はとてつもない距離を移動する。
今回の旅を経て、想像していたことを体感することが出来た。あらためてこの研究、リサーチ、取材、撮影、制作、もしくは単なる旅ともいえるこのプロジェクトが、私にとって必要な経験であり、今後おそらくずっと続いて行くことを確信した。そして、これまでとこれからの私のアーティストとしての外せない活動となったことには間違いないだろう。次はどこへ行こう。

本奨学プログラムを利用してみて:

修了制作の前に、自分の制作・研究のためにとても有意義な経験になった。

 

渡航スケジュール:
7/25 東京ーハノイーパリ:飛行機
7/26–8/8 パリーリヨン:鉄道
8/8–8/14 リヨンーマルセイユ:鉄道
8/14–8/19 マルセイユーマルタ:飛行機(カシ8/17、ラシオタ8/18)
8/19–8/24 マルターバルセロナーアリカンテ:飛行機(コミノ8/23)
8/24–8/28 アリカンテーマドリード:鉄道
8/28–8/31 マドリードーアテネ:飛行機
8/31–9/6 アテネーブダペスト:飛行機
9/6–9/8 ブダペストーベルリン:飛行機
9/8–9/20 ベルリンーパリ:飛行機
9/20–9/23 パリーハノイー東京:飛行機
9/24 帰国