2017年度長期派遣奨学生〜中根 唯

研究タイトル:
「東から西へ移動する、「日本人」の気配を探す」

氏名:中根 唯
奨学年度:2017年度奨学生
奨学区分:長期派遣枠
滞在期間:2017.9.18 – 2018.6.28
滞在先:中国、ロシア、ハンガリー、オーストリア、チェコ、ポーランド、ドイツ

活動内容:

日本から中国を経由し、シベリア鉄道などのなるべく地に足がついた移動手段を使ってロシアの都市を周り、ヨーロッパ中部まで向かう旅をしました。
それぞれの土地に住む人々や道中に出会った人々の顔をスケッチさせてもらい、相手にも私の顔を絵か言葉で描いて(書いて)もらうという記録をとり続けしました。
絵に描くという方法を選んだのは、描く人がどのように対象をみているのかを垣間みることができ、私にとっても、なるべく時間をかけてその人の顔をみることができる方法だったため、ふさわしい手段だと考えたからです。
また、日本人である私の顔は、ヨーロッパ圏の人々が見たときに、どこが特徴的に見えるのかを知るため、相手にも描いて(書いて)もらうというかたちにしました。
記録の他に、行く先々で民族博物館や自然史博物館などを見学し、その土地にまつわる人々がどのように生き、周りの国々と関わってきたのかをリサーチしました。
また、ロシアのウラジオストクでは個展を開催する機会をいただき、スケッチの記録と自作品を展示しました。

気付いたこと、見つかった課題:

ヨーロッパで、バスで数時間移動しただけで隣の国に行けてしまうことを体感し、それは予想以上に自分にとって衝撃的なことでした。
日本に暮らす私にとっては国をまたぐということは海を渡るということであり、飛行機に乗ったり船に乗るということですが、他の国の人にとっては必ずしもそうではなく、例えばウィーンの人々は、ランチを食べるためにバスで1時間ほどの距離にある隣国の首都ブラチスラバへ行ったりするそうです。もちろんそれはEU圏であるからできる気軽さなのですが、交通手段の発達もあるとはいえ、それぐらいの距離感で人々の行き来があるということ自体が興味深く、日本が島国であることやユーラシアという単位で見たときに極東に位置していることなどをより意識するようになりました。
逆にロシアとモンゴルの国境での厳しい出入国審査では、国と国との境目について意識させられる場面もあり、移動にまつわる多様な体験ができました。

渡航を経ての今後の制作活動:

移動を重ね、その度に少しだけその土地に慣れるということを繰り返しながらヨーロッパにたどり着くことで、地理的な距離感と文化のグラデーションを身を以て感じることができた貴重な体験となりました。
特にロシアをまわっているときは、西へ進むほどヨーロッパらしい町並みや雰囲気に近づいて行くのを感じました。ウラン・ウデというモンゴルに近い地域ではブリヤート人(モンゴル系民族)とロシア人が同じように暮らし、大きく中東に近い地域になるほどウズベキスタンなどからの移民の人々をたくさん見かけ、旧ソ連の雰囲気は残しつつも国ひとつの中でも様子がだいぶ変わっていくのがとても興味深かったです。
記録としてスケッチをしていくことは出会う人々との交流のきっかけにもなり、また相手にも描いて(書いて)もらった私の記録は人によって多様な表現が見られました。
プロジェクトとして今後も続けていき、いつかひとつにまとめたいと思っています。

本奨学プログラムを利用してみて:

自費だけでこれだけ長期的に長距離、多数の国をまわるのは難しいことでした。とくに他のヨーロッパ諸国ほどあまり情報がなく、ビザの申請などでたくさんの下準備が必要なロシアへの渡航を、安全かつ充実した旅にすることができたのは、本奨学金プロジェクトがあったからこそでした。
奨学生に選んでいただいたことで責任をもった行動を心がけ、自費での計画では得られなかったであろう、ほどよい緊張感を保って活動できました。その成果がウラジオストクでの個展にもつながったと考えています。
今回得られたご縁と経験は、今後続いていく制作活動に確かな影響を与えてくれました。貴重で唯一無二の機会をいただき、心から感謝申し上げます。

 

渡航スケジュール:
基本的にホテル・ホステルでの滞在。途中できるかぎりで出会った人のスケッチを行った。
9月19日 成田国際空港より渡航。北京首都国際空港着。
9月20日 北京駅より鉄道でロシアのウラン・ウデへ出発。車中2泊。
9月22日〜26日 ウラン・ウデに滞在。ブリヤート民族博物館、イヴォルギンスキー・ダツァン、ブリヤート大学などを見学。
9月26日 鉄道でクラスノヤルスクへ出発。車中1泊。
9月27日〜30日 クラスノヤルスクに到着。郷土資料館を見学、日本人墓地などを訪問。
9月30日 鉄道でエカテリンブルクへ出発。車中2泊。
10月1日〜4日 エカテリンブルクに滞在。ウラル・インダストリアル・ビエンナーレを見学。
10月4日 コルツォヴォ国際空港より飛行機でサンクトペテルブルクへ出発。
10月4日〜10日 サンクトペテルブルクに滞在。エルミタージュ美術館やエラルタ美術館を見学。
10月10日 鉄道でモスクワへ出発。
10月10日〜19日 モスクワに滞在。モスクワビエンナーレ、トレチャコフ美術館、Garage Museum などを見学、イラストレーターのAnna Pokarjevskayaさんのスタジオを訪問。
10月19日 シェレメチェボ空港より渡航。ブダペスト空港着。
10月19日〜28日 ブダペストに滞在。民族博物館、恐怖の館、ブダペスト現代美術館などを見学。
10月28日 バスでウィーンへ移動。
10月28日〜11月8日 ウィーンの友人宅、ホテルに滞在。ウィーン応用美術大学、美術史博物館、自然史博物館などを見学。途中スロヴァキアのブラチスラヴァを2日ほど訪れ、ブラティスラヴァ美術大学などを見学。
11月8日 バスでプラハへ移動。
11月8日〜11月17日 プラハに滞在。ヴェレトゥルジュニー宮殿、共産主義博物館などを見学。
11月17日 バスでクラクフへ移動。
11月17日〜21日 クラクフに滞在。地下博物館、クラクフ現代美術館などを見学。
11月21日 バスでワルシャワへ移動。
11月21日〜27日 ワルシャワに滞在。ワルシャワ近代博物館、ポーランド・ユダヤ人歴史博物館などを見学。
11月27日 再びバスでクラクフへ移動。
11月27日〜29日 クラクフに滞在。アウシュヴィッツ・ビルケナウ国立博物館を見学。
11月29日 バスでベルリンへ移動。
11月29日〜12月4日 ベルリンに滞在。ハンブルク駅現代美術館、絵画館、バウハウス展示館などを見学。
12月4日 バスでニュルンベルクへ移動。
12月4日〜7日 ニュルンベルクに滞在。新美術館、ドク・ツェントルム、ゲルマン国立博物館を見学。
12月7日 バスでミュンヘンへ移動へ移動。
12月7日〜13日 ミュンヘンに滞在。アルテ・ノイエ・モダンピナコテーク、ハウス・デア・クンストなどを見学。途中日帰りで、オーストリアのブレーゲンツ美術館を見学。
12月13日 ミュンヘン空港より帰国。2018年5日31日 成田空港より渡航。ウラジオストク国際空港着。
5月31日〜6月3日 ウラジオストクに滞在。個展開催のため搬入。
6月3日 一時帰国。
6月24日 搬出のため再びウラジオストクへ渡航。
6月24日〜6月28日 ウラジオストクに滞在。Zarya現代美術センターなどを見学。
6月28日 ウラジオストク国際空港より帰国。
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