研究タイトル:
「絵と現象」
活動内容:
日常を旅しながら絵を描いた。湖、森、海、山、洞窟、湿地、雪原、丘など自然豊かな地を好んで、そこで過ごす日常を訪ねた。1、2ヶ月ほどを目安に描き終えた絵をその場所に置いてみることを終えたら、また次の場所へ移動する。その繰り返しをおよそ1年間、ヨーロッパの四季の中で過ごした
旅はあらゆる変化であふれていた。場所によって、時間によって、変化はまた次の変化へと干渉して、それは私の内側の感覚や感情にも及んだ。やがて、その表層をすくうように絵が変わっていった。
たくさんの美しい自然現象をみた。最初の国で、白夜の中、光る湖をみた。この風景を後になって思い返したとき、絵と同じだと感じた。それは、たくさんの変化が積み重なったもの、その表面としてあの現象が目に映っていたこと。
変化するとは言え、私と絵という軸は変わらないため、それに紐づいて変化する絵は物語のように繋がっていくようであった。この旅は変化するものとしないものを観測する中で、「絵とは何か」という私の絵の概念を「現象」になぞらえて見据えるものであった。
気付いたこと、見つかった課題:
旅の中で大切なことは荷物を減らすことだった。なぜなら、移動するのに身動きが取りづらいからだ。いま何が必要なのか優先順位の上のものだけを残し、荷物は減っていき、鞄は絵と画材で埋まっていった。
その感覚は荷物だけではなかった。例えば、言葉にしても日本語は使えない。料理であっても日本の食材や道具がない。つまり、これまでの知識や思考ではなく、この場に適したものを身につけなければうまく生きていけなかった。
それは絵も同じで、過去の絵をなぞろうとするとうまく描けず、絵を描くためにはその都度その日常になじんだ新しいものを欲しているようであった。めまぐるしいほどの変化の中で適応するためには、過ぎ去っていく感覚に従って忘れていくことが大切であった。
渡航を経ての今後の制作活動:
これからも旅をしながら絵を描き続けようと思う。日本を離れてみて実感したのは、どこに行ってもその環境ごとに私は何かしらの大きなものに囲まれていて、その中で渦巻く力に流されながら絵を描いているのだと気づいた。何かしらというのは人によって知覚できるものは違うとは思うが、少なくとも私にとっては言葉にするにはとても抽象的で、だからこそ絵という方法はその正体を映すのに適しているのではないかと思う。いろいろな場所で絵を描けば描くほど、比較したり俯瞰したりその気配を感じ取れるような気はしたが、その大きさが計り知れないことがわかるばかりだった。私はこれからも日常を旅しながら絵を描くことを続けてその正体をいつかみてみたい。
本奨学プログラムを利用してみて:
このプログラムはとても自由だった。お金という制限をなくしてくれた上で、課題や期限といったものも特にないので、赴くままに活動できた。過去の渡航者の記録も自身の活動をイメージするにあたって参考になった。それぞれの成果や記録は同じ油画であるにもかかわらずとても多様で刺激的だった。
一方で、実際に行ってみると自由であるゆえにわからないことだらけで不安で身動きが取れないことも度々あった。しかし、そういった困難な状況にも次第に慣れていき、わからないけど行ってみる・やってみるという、不安を無視して切り拓く力。これはこの渡航での一番の成長であり、これから生きていくために大切な力だと思う。
この度はご支援していただき誠にありがとうございました。
7月8日 ヘルシンキ(フィンランド) 入国
7月8日〜15日 ヘルシンキ(フィンランド) 観光
7月15日〜8月15日 シンペレ(フィンランド) ベリー農家に滞在
8月15日〜9月1日 ロヴァニエミ(フィンランド)レジデンス滞在、グループ展
9月1日〜10月5日 フィンランド 友人宅滞在
10月5日〜10月22日 クロアチア 観光
10月22日〜11月3日 ロンドン(イギリス) 観光
11月3日〜12月4日 スモリャン(ブルガリア) ホームステイ
12月4日〜1月1日 ブルガリア 観光
1月1日〜1月13日 キエフ、リヴィウ(ウクライナ) 観光
1月13日〜1月16日 ワルシャワ、クラクフ(ポーランド) 観光
1月16日〜3月11日 トロンヘイム(ノルウェー) ヤギ牧場に滞在
3月11日〜3月17日 オスロ、コペンハーゲン、アムステルダム、パリ 観光
3月17日〜5月31日 ベー(スイス) ブドウ農家に滞在
4月12日〜5月31日 新型コロナのため延長して滞在
5月31日 ジュネーヴ(スイス) 帰国