2017年度短期派遣奨学生〜三枝 愛

研究タイトル:
「墓守/転用石」

氏名:三枝 愛
奨学年度:2017年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2017.8.29 – 9.29
滞在先:韓国、台湾、日本

活動内容:

日本、韓国、台湾の墓、かつて墓として使われていた土地、墓とは別の用途を持つようになった石を巡る旅をしました。
戦時中の沖縄のように、墓の中に家族が身を寄せるなど、死者だけでなく時に生者の身を守ってきた墓は、一方で土地の不足やジェントリフィケーションによって失われつつあります。
韓国で訪れた最初の目的地、釜山では、かつての日本人墓地が村となって現在もその痕跡を見ることができ、済州島では、畑や戦争中の飛行場跡と共存する土饅頭を見てきました。
台湾の高雄にある市営墓地は今まさに公園化に向けて工事中でした。高台に残された日本人遺骨安置所では、墓地で暮らし、働いてきたおじいさんと筆談を交わしました。
2週間利用したアーティストインレジデンスの拠点もまた、かつての軍人が暮らしてきた、お寺と納骨堂に隣接した村です。
最後に向かった沖縄でも、賑やかな通りの裏に残るたくさんの無縁仏に出会い、墓同様に大切に守られてきたガマを訪ね、地域の方に話を聞きました。

気付いたこと、見つかった課題:

日本海のすぐ先に台湾や韓国、中国がありますが、わたしが幼少期から親しんできたのは太平洋でした。太平洋から想像する海外は、果てしなく遠い存在でしたが、今回実際に足を運んだ土地は、確かに自分の立っている地面と地続きに見えてくる感覚がありました。言葉については、韓国では田舎に行けば行くほど日本語はもちろん英語も通じず、文字もハングルのみで苦労しました。一方台湾では、言葉の通じない人とも、筆談によるコミュニケーションを取ることができました。そのことでわたしの使う言語としての日本語は、音ではなく、形なのだと気が付きました。
日本に戻り、話し掛けた沖縄のおじいさんの方言が、ひとつも意味が認識出来ず、遠く感じたこともまた、印象深い瞬間でした。

渡航を経ての今後の制作活動:

墓がどのように残っていくのかを見るつもりで渡航しましたが、その倍以上に無縁仏となった墓、なりつつある墓に出会いました。このことからひとつの作品が出来、今後も継続していくつもりです。
また、今回訪れたいくつかの場所が、5年後、10年後にどのように変化していくのか、それを定点観測的に追っていくことができればいいなと考えています。
在学時より、活動拠点を京都に移しましたが、ここでもいたるところで工事が行われ、これまで許されていたことが一斉に規制されはじめています。景色は刻々と変化し、残すべきものも見えなくなっていくかもしれません。それを注意深くみていきたいと思います。

本奨学プログラムを利用してみて:

他にはない自由度の高いプログラムであると感じました。しかし今回のように、関連する国内の地域にもリサーチの場を広げ活動しようと思ったときに、渡航費が全額支給とならない、国内分については滞在費も自己負担となる点については、今後検討の余地があるのではと感じました。

 

渡航スケジュール:
福岡8/26-27 新幹線で福岡へ
市民福祉プラザ/二日市保養所跡/二日市温泉対馬8/28-29 フェリーで対馬へ
対馬アートファンタジア/太平寺チェジュ島漂流者墓/松浦家の墓/内院小学校跡/旧 瑞泉院裏山/西山寺韓国8/30-9/16 高速船で釜山へ(釜山ーソウルー慶州ー済州島)
元東洋拓殖株式会社釜山支店(釜山近代歴史館)/碑石文化村・甘川文化村/蓮山洞古墳群/市立美術館・李禹煥ギャラリー/釜山市立公園墓地/Leeumサムスン美術館/踏十里古美術商街/国立近現代美術館/釜山日本総領事館慰安婦像/チェジュ美術館/チェジュ現代美術館/アルトゥル飛行場/4.3平和公園/石文化公園/良洞民俗マウル・古墳群

台湾9/18-10/5 飛行機で台北へ(台北ー台中ー台南ー高雄)
2.24記念館/故宮博物院/台湾アニュアル/TAV歴史重述展/台湾大学/龍山寺/新富町文化市場/四明堂墓園/台湾芸術大学/九份老街/LGBTQ展/林森公園/台湾ビエンナーレ/安平 台籍日本兵墓/日本人遺骨安置所(高雄市覆県金公墓)

沖縄10/6-11 飛行機で沖縄へ
那覇まつり(旗頭行列・大綱引)/チビチリガマ・シムクガマ/喜名番所/浦添ようどれ/伊祖の高御墓/対馬丸記念館