研究タイトル:
「ゴーストと探す人類の”物語”」
活動内容:
私の研究において、人間が生きてゆく上で必要としてきた人類の移動、政治、宗教、経済のことを”物語”と定義しています。その”物語”の蓄積を「人類の進化の過程」「地域に根付いた信仰」「人々との交流」の観点から調査し、考察を行うことを目的に東京藝術大学の交換留学制度を利用しながら渡航しコミュニケーションを軸に調査を行いました。ネアンデルタール人を最初に発見した場所でどのように人類の進化を紹介しているのか、あるいはヨーロッパでの人類の進化の紹介方法にフォーカスしていくつかの博物館を調査しながら考察を深めました。また、ミュンスターには多くの教会があり、クリスマスやイースター、キリスト昇天祭などの祝日やイベントをドイツで体感し、宗教がこの国においてどのように位置付けられるのかを体験することで観察を行いました。帰国する直前にはCOVID-19のパンデミックが表明され、ドイツ政府の対応、市民の動きや反応を、街を歩き記録を行いながら時にはシェアハウスのルームメイト達と会話をすることで調査を行なっていました。この期間によって強烈に感じたコミュニケーションにおける身体性の希薄さと、身体による他者との触れ合いの希求をゴーストという存在に置き換え作品を制作し始めました。
気付いたこと、見つかった課題:
ミュンスターはデモが多く、大きなデモがあるときはフラットメイトのグループSNSに誰かが「誰か明日のデモに参加する?」とパーティーのように気軽に誘われることも何度かありました。また、滞在中豊富な種類のゲームをしました。友人のフラットメイトが何度もボードゲームに誘ってくれたり、自分のシェアハウスでもフラットメイトで集まりカードゲームやボードゲーム、その他様々なゲームをしました。興味深いのは、私が参加した全てのゲームはゲームプレイヤー間での議論や交渉などがつきものだったことです。私の住んでいた地域は学生街ということもあり、一人暮らしのマンションももちろんありますが、学生の多くはWG(Wohngemeinschaftの略)と呼ばれるシェアハウスに住むのが一般的で、ある種疑似家族のように協働して生活しています。以上のことから、助け合い協同するためのコミュニケーションについて学びました。それらの経験について改めて日本で考察を行います。
渡航を経ての今後の制作活動:
今回の海外での滞在では初めてパフォーマンスを制作する人間としてたくさんの人に関わりました。滞在中は主に他者とのコミュニケーションに焦点を当てて制作を行いました。パフォーマンスを成功させるためにどのような準備段階が必要か、どう見せることが効果的なのか。ミーティングでクラスメイトの作品を見る、教授の作品を体感する、ミーティングで自分の作品プランを発表してその都度アドバイスをもらう、ミーティングの進行を観察する、何度も自分の作品を実際に試す。これらの方法により次第に柔軟に自分の作品を組み立ててゆけるようになりました。
私の作品は他者や社会との関係の間に起きた問題を例え話のように象徴的なものに置き換える事でより体感に近づけることを目的としています。今後も社会や地域に起きたことを「例え話」にしてゆくことが出来ると今回の渡航による経験で確信することができました。
本奨学プログラムを利用してみて:
石橋財団の奨学プログラムがあることは、海外へ行く後押しのひとつになりました。
長く生活してきた国とは言葉も気候も歴史も異なる場所で生活することは、旅行などの短期間の滞在よりも大きな収穫がありました。数ヶ月に渡る生活の中で食事、習慣、教育、それらの違いに新しさを見つけ、楽しみ、理解する。それは自分の中の問題意識を見直したり、今後の私の生活と制作において、物事を考える上での視点や判断材料を増やすことができる貴重な時期になりました。
COVID-19のパンデミックによって様々な問題が発生した中、一括で奨学金の全額をいただけたことと渡航費をいただけたことがとてもありがたかったです。ただ、深刻な状況のために報告展示会の開催が難しいこと、同時期に他の国々でこの大きな出来事を体験した方々の作品を見ることが出来ないかもしれないということがとても残念です。今後、感染症対策が万全な環境の中での展覧会が開催されることを希望いたします。最後になりましたが、この度の奨学プログラムにご採択いただいたことで私の人生における重大な経験を得ることが出来たことに、心よりお礼申し上げます。
9月23日 成田空港より渡航。/ 9月24日 デュッセルドルフ空港(ドイツ)着 ミュンスターへ移動 / 10月14日 ミュンスター美術アカデミー授業開始 / 10月18日-10月20日 ベルリン滞在 ドイツ歴史博物館・ペルガモン博物館・ユダヤ博物館・工芸美術館・虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑(ドイツ)/ 12月26日-12月31日 クラクフ滞在(ポーランド) / 12月27日 クラクフ クラクフ地下博物館 / 12月28日 ヴィエリチカ岩塩坑 / 12月29日 クラクフ クラクフ考古学博物館・現代美術館 MOCAK/ 12月30日 オシフィエンチム アウシュビッツガイドツアー参加(ポーランド) / 12月31日 ユダヤ博物館 / 2月5日-2月9日 ミュンスター美術大学 Rundgangにて作品発表(ドイツ)/ 5月24日 デュッセルドルフ・ネアンデルタール博物館(ドイツ)/ 5月28日 ケルン NSDocumentation centre of the City of Cologne・Rautenstrauch-Joest-Museum・ケルン大聖堂(ドイツ)/ 5月31日 ミュンスター Zwinger(ドイツ) / 6月2日 フランクフルト空港(ドイツ)より出国。/ 6月3日 羽田空港着。