2016年度短期派遣奨学生〜市川 詩織

研究タイトル:
「Poster works そのイメージが帰ってくる日」

氏名:市川 詩織
奨学年度:2016年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2016.8.1 – 9,1
滞在先:ポーランド

制作物の展示

活動内容:

ポーランドは、多くの著名なグラフィックデザイナーを生んできました。ヨーロッパの中でも独特のアイデンティティを持つポーランドの新旧 様々なグラフィックを、ギャラリーやストリートでとにかく多く目にし、学び、自分の作品へと持ち込みたいと考えて渡航を決めました。
活動としては、まず、Łódźという都市にある美術大学、Strzemiński Academy of Fine Arts Łódźが提供する サマーコースPATA の第2 期 、コース10(GRAPHIC DESIGN: NEWSPAPER/ZINE AND BOOK ART)に参加し、グラフィックを学びました。期間中は学生寮に滞在し、最後に展示を行いました。その後、ポーランド内のギャラリー、有名施設をまわり、文化を吸収しつつ、大学での学習を 生かしながらポスターを制作し、日本で出力を行いました。

気付いたこと、見つかった課題:

石橋財団への申請を出した当初の目的は、グラフィックの勉強が主でした。しかし、実際にポーランドに長期滞在し、様々な人と接するにつれて、あまり接点のないはずの二国間に不思議な共通点があることに気づきました。それは一体何なのか、考えを巡らせているうちにたどり着いたのは、やはり、ホロコーストやワルシャワ蜂起の悲しい歴史でした。私がワルシャワに到着した8月1日は、ワルシャワ蜂起の記念日でした。街が一瞬停止し、人々が祈りを捧げる姿は、広島・長崎の黙祷を思い起こさせました。
ポーランドはストリートアートがものすごく多い国です。壁に無数に描かれた落書きは、最初こそ少し汚く見えていたものの、その多くがあの悲しい歴史についての訴え・メッセージであることに気づきました。もう70 年以上前の歴史に対して残るそのエネルギーは、同じような歴史を持つはずの日本のアーティストとして忘れてはならないものであると強く感じました。

渡航を経ての今後の制作活動:

私の作品に内在するメッセージは一体どういう背景を持っているのか。それは、私たちの身の回りで起きていることだけではなくて、より広い世界の歴史から考える必要があるのかもしれません。
私は今まで、日本で、しかも近くにいる人に向けて作品をつくりがちでした。メッセージが伝わる範囲はそれが限界だと思い込んでいたからです。しかし、国が離れていようとも、人間の根本的な生き方は同じであるということを、アウシュビッツや、ゲットーを見て思いました。さまざまな国の人が訪れ、その悲しい歴史を見つめ、考え込んでいる空間は、ある国籍に依存しない、一つのより広い意味を持つ共同体空間として、私の目には映りました。私が作品を使って発信するメッセージは、その大きな共同体全体から、理解される可能性を持っているのだと思います。今後の制作は、その広い視野を持って行いたいと思っています。

本奨学プログラムを利用してみて:

今回、石橋財団の奨学金を利用させてもらう機会を得て、作品の制作だけでなく、発表の目的や対象への考え方を大きく変える経験をすることができました。勉強のためという揺るがない目的を持っての渡航は、ただの旅行では到底できないような体験をもたらす素晴らしいものとなりました。ありがとうございました。今回私は、同時期に渡航中だった青木さんと行動を共にしていました。もちろん1人での渡航が語学の勉強などには良いかもしれません。しかし、アート関係の渡航において2人以上の渡航は、1人に比べ、かなり行動範囲が広がると実感しています。石橋財団奨学プログラムでは、2人での申請は不可となっていたと思いますが、グループでの申請が通るようになれば、より活動範囲が増え、安全を考えても良いのかなと思いました。

 

渡航スケジュール:
8月1日 成田空港発 フレデリック・ショパン空港到着、滞在
8月2日 ショパン空港から学生寮Dom Studenta(滞在先)へ
8月2日-17日 Strzemiński Academy of Fine Arts Łódź が提供する summer courses の第2期、コース10(GRAPHIC DESIGN: NEWSPAPER / ZINE AND BOOK ART ) に参加
8月17日-20日 Łódź市街 ホステルに滞在。美術館、ギャラリー、ブックアーティストのアトリエへ
8月21日-25日 高速バスでクラクフへ移動、ホステルに滞在。アウシュビッツ・クラクフゲットー・ユダヤ人美術館など、戦争にまつわる土地へ
8月25日-26日 高速バスでSanokへ移動 ベクシンスキー美術館、ホストの方の案内でポーランドの歴史家屋へ
8月26日-27日 クラクフで一泊
8月27日-31日 ワルシャワに滞在、ギャラリー、ストリートアート、美術館を見てまわる
8月31日 フレデリック・ショパン空港発
9月1日 成田空港到着