2015年度長期派遣奨学生〜しばた みづき

研究タイトル:
「ヨーロッパ大陸における実験(各地でのつぼ制作と経過観察)の可能性と現地調査」

氏名:しばた みづき
奨学年度:2015年度奨学生
奨学区分:長期派遣枠
滞在期間:2015.11.1 – 2016.5.13
滞在先:フランス、オランダ、イタリア、スイス、フィンランド、リトアニア、バチカン市国、イギリス、モロッコ、ドイツ

アヴァリカムでの展示風景(ブルジュ、フランス)

活動内容:

日本という島国にはないヨーロッパ大陸の地続きの利点を活用し、自身の実験(行く先々でのつぼ制作とその経過観察)を各地で行った。
実験内容は簡単なもので、訪問先の土地(土)をその場で練り、つぼ状に成型してそれを記録し、その場に置いてくる。その後、その場を再訪し変化を観察するというものである。
この実験は、以前から持ち続けている「完成品」としての美術の在り方への疑問が核となっており、その疑問は震災以降更に顕著になり、より不定形でより継続可能な美術の在り方を考える上で自身にとって重要なものである。重要なことは、この実験はどこでも行えるということである。既に日本国内でもこの実験を行っていたが、今回この奨学制度の助けを借り、ヨーロッパでの活動も可能となり、今回はフランスを拠点として知り合いを訪ね歩きながら実験を行った。
また、つぼを作ることと同時に、各国での生活習慣、特にお茶の時間の過ごし方について現地に住む人々を観察した。

気付いたこと、見つかった課題:

今回、長期滞在をして感じたことは、自分自身がすべてを日本のそれと比較しながら見てしまうということである。例えば、観察対象としていたお茶の時間の過ごし方然り、建物、食べ物、人々の振る舞い方や社会システムなど、生活にかかることすべて所々に相違点を見付けることができ興味深く暮らした。特に建物について大きく実感したことは、環境によって決まりが生まれるということである。その土地毎で採れる建材を使い、気候に合った建築様式で建てられた建物は、その土地では機能的で暮らし良い建物となる。建物が人々の動きをある程度決めるということは日本に居た際も感じていたことであるが、異なった様式を体験するうち、更にそう感じる様になった。
そういった違いや言葉の違いはあれど、元となるものに違いはないということも改めて感じたが、何かを協力して行おうとした時の考え方の違いは思っていたよりも大きいということは驚いた点である。

渡航を経ての今後の制作活動:

渡航先では、たくさんの友人に助けられながら生活や制作を行うことができ、また新たな友人を作ることもできて有意義な時間を過ごした。
今後は、新たに出来た現地の友人とのやりとりを続ける中で、美術での交流をより増やしていきたいと考える。また、日本に来てもらいやすい環境を整え、ぜひ自分の住んでいる環境を体験してもらいたい。
渡航期間を終えての感想は、やはり意思表示の重要性を再認識したということが大きい。言葉の壁もあれど、すぐに意見を述べられる様になることが、円滑な人間関係を築く上で重要だと再確認した。
実験を続けるうち、その土地(土)の特徴も観察できたが、それを見る人々の反応も、日本のそれとは違うと感じることが多く、やはり”美術的なもの”への理解深度が違うのかも知れない。
私にとって助けられる部分も多いが、日本で同じ様な理解を得るにはどうしたらよいかということは今後の課題としたい。

本奨学プログラムを利用してみて:

今回の貴重な体験の数々は、この石橋財団奨学プログラムの御蔭です。美術の曖昧な部分を汲んで助成を提供してくれるこの奨学制度は確実に学生の為になると考える。素晴らしい機会を頂けて、大変感謝しています。
渡航計画を自分で自由に組め、尚且つ変更も可能なことも利点のひとつと思う。今回、渡航先でのテロが相次ぎ、元々計画していた様には廻らないこともあったが、特に長期滞在の場合は先が読めないことも多い為に、変更を余儀なくされることは起こりうる。そういった部分も踏まえて、今後もこの様な自由度を保ったままこの助成制度が続くことを願う。

 

渡航スケジュール:
※訪問先でその都度、つぼを制作。
・2015年10月9日 羽田空港発、CDG(フランス)空港着、シテ・デザール(パリ)着。
・10月10日-17日 シテ・デザール滞在制作
・10月18日 CDG空港発、スキポール(オランダ)空港、福岡空港経由、羽田空港着。
・10月19日- 31日 東京にて展示参加。
・11月1日 成田空港発、スキポール空港着。4日までスキーダム滞在。WdKA芸術大学やギャラリー見学。
・11月5日-15日 シテ・デザール滞在制作。7日にチュイルリー公園で野点。(12日にパリでテロ発生)
・11月16日-22日 イタリア滞在。フィレンツェ、ミラノ、ヴェネツィアで国際美術展などを鑑賞。
・11月23日-12月10日 シテ・デザール滞在制作。30日からパリ・ボザールでのフレスコ画体験。12月6日 ビュットショーモン公園で野点。
・12月10日-11日 ナント(フランス)で芸術大学など見学。12日 剣道練習試合参加。
・12月21日-23日 ローザンヌ、ブリーク(スイス)のアーティストレジデンス訪問。
・1月1日-2日 リヨン(フランス)ビエンナーレ鑑賞。
・1月18日-21日 ヘルシンキ(フィンランド)で現地アーティストと交流。ギャラリーなど観る。アイススケートをする。20日 タリン(リトアニア)観光。
・2月16日 シテ・デザールにて自身のオープンスタジオ(お茶パフォーマンス)。
・2月17日-25日 フィレンツェ、ローマ(イタリア)、バチカン(バチカン市国)で展示や遺跡を観る。
・2月26日-28日 シェムリー(フランス)で城内のギャラリー設立の手伝い。
・3月4日- ブルジュ、イスーダン(フランス)付近滞在。美術展など鑑賞。7日 バガテル公園で野点。9日 日本文化会館で裏千家茶道体験参加。18日~21日、30日~4月1日 ブルジュにて展示搬入作業、ベルニサージュ参加(お茶パフォーマンス)。
・4月3日-6日 ロンドン(イギリス)で美術展など鑑賞。7日-12日 マラケシュ、メルズーガ、カサブランカ(モロッコ)で砂漠ツアー、現地のアーティストとの交流など。14日-16日 ブルジュでプランタン・ド・ブルジュ(音楽祭)を観る。展示フィニッサージュと搬出。
・4月17日-19日 リヨン、ショーヴェ、ポンダーク、アヴィニョン、ルシヨン、オランジュ(フランス)を車で廻る。20日 ジュネーヴ(スイス)で美術展など鑑賞。21日~22日 ケルン(ドイツ)で現地アーティストと交流、美術展など鑑賞。
・4月23日-25日 ドイツ滞在。ブラウンシュヴァイクで芸術大学見学、美大生と交流、カポエイラ体験、美術展など観る。26日-28日 ベルリンで戦争資料館や美術展など鑑賞。ベルリン在中の美大の先輩方と交流。
・4月29日-9日 オランダ滞在。2日 ロッテルダム、ドルトレヒトで美術展など鑑賞。ギャラリー運営をしている方に話を聞く。3日-6日 ロッテルダム、アムステルダム、リッセ、ライデン(オランダ)で美術展、日本の資料など鑑賞。キューケンホフ公園を観る。7日-9日 ロッテルダム、スキーダムで現地アーティストと再会。
・5月10日-11日 パリにて美術展などみる。オランダへ移動。
・5月12日-13日 スキポール空港発、ドーハ(カタール)空港経由。 成田(日本)空港着。