2017年度短期派遣奨学生〜川谷 久海

研究タイトル:
「東欧の舞台芸術の歴史とデザインの特徴に関する研究」

氏名:川谷 久海
奨学年度:2017年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2017.9.5 – 10.7
滞在先:チェコ、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア

活動内容:

東欧4カ国の首都で大小さまざまな演劇を時間の許す限り鑑賞しました。全ての舞台は夜に始まるので、日中は博物館や一風変わった趣旨のショーパブ、路上パフォーマンスやあらゆる歴史的建造物などを観察して回りました。そういったものの全てに舞台美術に通じる東欧独特の感覚を見ることができたからです。
プラハでは伝統的な人形劇を始め、ブラックライト・シアターという近年に始まった蛍光質の小道具を利用したダンスパフォーマンスをほぼ毎晩観劇しました。
またその後のウィーンでは国立劇場にてオペラ、バレエを観劇し、公演日以外は舞台裏を観察することもできました。
演劇大国である上記二カ国を周った後のハンガリー、ルーマニアでは、主に演劇の題材となった歴史や民間伝承についてのリサーチを行いました。例えば小説「ドラキュラ」のモデルとなったヴラド・ツェペシュ公の城や、中世の要塞の数々などです。14世紀の建物がそのまま残る東欧の各地では、演劇の中で再現されるそれらの本物の姿を知ることができました。

気付いたこと、見つかった課題:

かなり深刻に英語ができない方でしたから、当初生きて帰れるか50/50位の気がしていました。「生きて帰れる」という気付きがまず一番の収穫です。またルーマニアに関して、渡航前はネット上に治安面等で良からぬ情報ばかり溢れていて不安でした。
しかし実際はどこの国とも変わらず人々は親切で、あまり日本では知られていない刺激的な文化や歴史の残るとても魅力的な国でした。
ある人にとっては最低でも自分にとっては最高な場合もあるし、とにかく行ってみないと何も分からないものだと思いました。東欧の街で見るあらゆるデザインや雰囲気の面白さにも、行く前には想像もしていなかったほど大きな影響を受けました。
信じ込んでいた自分の方向性が揺らいで不安な反面、やりたい事がくっきりと見え始めるきっかけになったと感じています。

渡航を経ての今後の制作活動:

大方の鑑賞者が飽きて寝ているような古っぽい人形劇を繰り返し見たり、拷問博物館や◯◯博物館など親戚には教えられないような類の物に足繁く通い、自分の欲求が赴くに任せて見たいものだけを見て、興味がない物は無理に記憶したり分析しないという生活を続けていると、自身にとって余計な物、必要な物が自然と選択し易くなってきました。
また日本で制作していると、ある題材を扱うたびにその理由が求められるのを想像して身構えてしまっていましたが、東欧の土着の文化にこだわらない自由な表現や、演劇において脚本や衣装に見られるためらいのないナンセンスに触れたことで、制作を始める前に思考が手を止めることがあまりなくなりました。現在は自分の興味分野である舞台・映画芸術について本格的に学ぶため、今年度からの留学に向けて準備を進めています。

本奨学プログラムを利用してみて:

今回の渡航で特別良かったと感じた点の一つは「旅行じゃない」ということです。今まで海外旅行の経験はありましたが、何となく宙に浮いている感じで、景色は素晴らしいけれどディズニーランドに行くのと何が違うのか今一つピンときていませんでした。
目的と「行って来い」と認めてくださる方々がいた今回の渡航で、自分が外国の地に足を着け確実に何かを得られていると感じることができたと思います。

 

渡航スケジュール:
9月5日 成田空港より渡航。チェコ共和国(プラハ)着
9月6日〜9月18日 プラハ滞在。国立マリオネット劇場、ラテルナ・マギカ(劇場)、ブラックライト・シアター、チェコ国民劇場などで演劇鑑賞。
9月19日 オーストリア(ウィーン)へ移動。
9月19日〜9月23日 ウィーン滞在。ウィーン国立歌劇場や小さなオペラ・ハウスで観劇。
9月24日 ハンガリー(ブダペスト)へ移動。
9月24日〜9月29日 ブダペスト滞在。地下迷宮や歴史的建造物、民間伝承にまつわる博物館などを取材。
9月30日 ルーマニア(ブカレスト/ブラショフ)へ移動。
9月30日〜10月6日 ブラショフ滞在。中世の要塞や民謡に関する取材。
10月7日 ブカレスト発、成田空港へ帰国