2017年度短期派遣奨学生〜諏訪部 佐代子

研究タイトル:
「身体の在りかをうつして Personal Identity and National Identity」

氏名:諏訪部 佐代子
奨学年度:2017年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2017.7,21 – 9.21
滞在先:オーストラリア

活動内容:

かねてから研究していたオーストラリアの土着の人々、アボリジニ(インディジネス)の方々に会いにいき共通言語を見つけること、またオーストラリアの現代美術を実践的に学ぶことが私の目標でした。
彼らに対して何もアクセスする手段を持っていなかった私は、どうアプローチするかサーチする1ヶ月を、現地の美大のスタジオで制作活動をしながらメルボルンで過ごしました。その中で価値観を揺るがすような出来事があり友人達の考え方に非常に刺激を受けました。
様々な関係者にアポイントメントをとり実際にお会いしてプランのプレゼンをしましたが、実際のところ著しく立ち入りが制限されている彼らのコミュニティとアポイントメントを取ることは非常に難しく、文化人類学者である神戸大学の窪田教授を始めとする多くの方の助けを借りて奇跡的に、生活を共にするという目標が実現しました。

気付いたこと、見つかった課題:

被差別者から被保護者へ変わったアボリジニの人々の現実を目の当たりにしました。村にあるショップでは毛をビビッドに染めることができる染料やマニキュアなどの嗜好品が並び、人々は政府から与えられたカードで支払いをします。実際にいきなり欧米化した暮らしに糖尿病やアルコール依存症などで苦しみ虚ろな目をする人々が多くいました。
絵画においては、アートセンターにアボリジニの人々が描かされる「ウケる絵画のレプリカ」が市場に並びます。絵画周辺の出来事は決して他人事と思えぬことばかりで、ゾッとしました。ただ多くの作品を見る中で、リアリティのある絵画、肉薄する作品を見たときは、本当に今2017年というタイミングでこの作品に出会えて良かったと感じられました。彼らの絵画のストーリーは非常に切実で、一人の作家として実感を持って彼らの言葉を受け止められました。とってもお茶目な友人と会うことができて私は大変幸運でした。

渡航を経ての今後の制作活動:

日本と同じ島国であるオーストラリアは多文化国家の酸いも甘いも引き受けて人々の生活を成り立たせています。今後外国人の流入が増えて行く日本において、ナショナルパーソナリティとしての国家の輪郭はどんどんとかたちを変えていくことでしょう。
このような話題には国際国家として他の国々と同化していくことへの恐れというものが語られがちですが、そのかたちを、ダイナミズムを、私はせめて明るい喜びを持って受け入れたい。この渡航は私にそのような思いを与えました。
これからよりミクロな単位で、見えないところで、文化の流入は恐ろしい速度で進んでいきますね。新しい概念が生ずるのも消えるのも、瞬きをした途端に見逃してしまう今日において、私はいちアーティストとしてそのかたちを目をかっぴらいてつかみたい。すでにインターネットを使いこなし、フェイスブックやインスタグラムに興じるアボリジニの若者たちを見てそんなことを考えました。

本奨学プログラムを利用してみて:

石橋財団の方には金銭面だけでなく、オーストラリア美術のことでも作品を拝見させていただくなどお世話になりました。
向こうのギャラリーやアートセンターで「ブリヂストンの奨学金で留学に来ています」というと、かなりみなさん反応を示してくださいます。実際にブリヂストンがコレクションを持っているアボリジニのアーティストの方がいて、その方にお会いすることができたので本当に感動しました。
図版や書籍だけでしか知らない現地のアーティストの制作現場を訪れることができたのは非常に幸運でした。
また、私のプラン上どうしても日本ではスケジュールを決定しようがありませんでしたが、そのような状況でも申請できる奨学金はほぼないので大変貴重だと感じました。
本件でお世話になりました方々に厚く御礼申し上げます。

 

渡航スケジュール:
7月29日 ヴィクトリア美術館、RMIT Gallery訪問
7月30日 Dights Fall、Heide Museum of Modern Art訪問
7月31日 現地のアーティスト(加藤チャコさん)のスタジオ訪問
8月3日 VCAのゼミに参加、Grainger Museum、Ian Potter Museum of Art訪問
8月4日 夜行バスでキャンベラに向け出発
8月5日 キャンベラ国立博物館、美術館、ポートレイト美術館、M16 Artspace訪問 シドニーに向け出発
8月6日 ニューサウスウェルズ現代美術館、S. H. Ervin Gallery、Ultimate Art Gallery、Museum of Sydney、オーストラリア博物館、Firstdraft、SOHO Galleries Sydney、ARTERY Aboriginal Art、Artspace Visual Arts Centre訪問
8月7日 関口とボンディビーチへ
8月8日 ACCA訪問
8月9日 ヴィクトリア美術館訪問
8月11日 ACMI訪問
8月17日 2度目のACCA訪問
8月18日 グランピアンズ国立公園訪問
8月20日 フィリップ湾にて恩師を弔う
8月22日 VCAにて作品プレゼン
8月23日・24日 ハンティングデール幼稚園でワークショップ
8月26日 ムーンリットサンクチュアリ訪問
〜28日やっとアポイントメントが取れる・帰国日を延長
8月29日 ダーウィン空港に向け出発、ゴブ空港に向け乗り継ぎ
8月30日〜1日 イルカラに滞在、Buku-Larrnggay Mulka Yirrkala Arts Centreにて活動
9月1日〜4日 窪田先生の調査地に滞在
9月5日〜6日 ダーウィンに滞在
9月7日〜11日 アリススプリングスに滞在
8、9、10日 砂漠のアーティストのシンポジウムに参加
9月11日〜13日 ウルルに滞在 野宿
インスタレーション作品:フィールドオブライツ鑑賞
9月14日 VCA訪問 報告
9月18日 タスマニア島ホバート空港に向けメルボルンより渡航、MONA訪問
9月19日 メルボルンに戻りお世話になった方々へお礼
9月21日 帰国