2022年度短期派遣奨学生〜志賀耕太

研究タイトル:
「フランスの団地とゲーム」

氏名:志賀耕太
奨学年度:2022年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2022.8.07 – 9.30
滞在先:フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、イタリア

活動内容:

フランス(パリ・マルセイユ)を中心に滞在し、私が制作で扱ってきた団地・遊び・ゲームについて調査し体験すること、そしてヨーロッパをまわることで現在のアートの動向、アーティストの活動を知ることを目的としました。

【パリ滞在】
・パリでは、ルーヴル美術館、ポンピデューセンター、パレ・ド・トーキョーをはじめとした美術館を回ることで、多くの貴重な近現代美術を見ることができました。また、シネマテーク・フランセーズや、モンパルナスの映画館、リヨン駅近くにあるフランス国立近代図書館など、現地の文化を知る施設にもたくさん行くことができました。特に、パリ工芸博物館や、貨幣博物館等で、ヨーロッパの国家に関する工業史を体感することができ、ヨーロッパの工業と共に発展した美術という側面を知ることができたのは学びがありました。

【アトリエ・レジデンス訪問】
・パリでアーティスト活動をしている、現代美術家のオノデラユキさんのアトリエにお邪魔し、ヨーロッパでの制作、発表についてや、生活について細かくお聞きすることができました。また、一緒にアジアマーケットに行ったり、パリの街を歩いたりと、現地での暮らしを体感することができました。また、パリではシテ・デザールというアーティスト・イン・レジデンスの施設に行くことができ、同世代の方々のパリでの活動について触れることができました。

【博物館めぐり】
ヨーロッパ渡航全体を通じて、現地の歴史的背景や美術の文脈の理解につながる、多くの施設を周ることができました。
オランダの海洋博物館では、鎖国下の日本との関係をオランダの視点から知ることができ、また、チェコの社会主義博物館では、チェコの民主化運動の歴史を学ぶことができました。そして、パリでは、劇作家・小説家のサミュエル・ベケットの墓に行くなど、様々な場所をみることができました。

【団地調査】
私は、東京の多摩ニュータウンという団地で生まれ育ち、その均質化された空間での経験から作品を制作してきました。今回のヨーロッパ渡航では、様々な団地を尋ねることで、日本の団地と違うところ、変わらないところを探す目的がありました。その中で、ル ・コルビュジエの建築、現代の集合住宅の基礎といえるマルセイユの「ユニテ・ダビタシオン」に行くことができ、そして実際に泊まって生活をすることで、ヨーロッパの団地の生活を擬似体験することができました。

【団地調査】
フランスでお会いしたアーティストの糟谷さんの紹介で、マルセイユに住んでいる日系フランス人のアレクサンダーに案内してもらい、街や現地のアート施設を探索しました。マルセイユは、現代美術の拠点がパリからニューヨークへと移行する際、パリのアーティストがニューヨークへと向かう港街であり、当時のシュルレアリスムのアーティストたちがゲームに興じる場となっていました。そこで、アンドレ・ブルトンが様々なアーティストと共同で制作したトランプや、マルセイユ・タロットなどを調べるなど、私の制作の題材である、遊び・ゲームと美術の関係性について、現地で探ることができました。また、ぺタングというスポーツの街としても知られ、若者たちが高台で夕日を浴びながら遊んでいる様子は素敵でした。

【ヨーロッパの国際展】
2022 年夏のヨーロッパは、ヴェネツィア・ビエンナーレ、ベルリン・ビエンナーレ、ドクメンタと、重要な国際展が一度に開催されていた時期であり、今回の短期渡航でも、それらの芸術祭を回ることができました。多様な表現と、現在のアートシーンの傾向を実際に見て回ることで、国際的なアートシーンについて理解を深めることができました。
また、展示空間、展示方法についても学べることが多く、制作を続けていく上で必要な体験をすることができて本当によかったです。

【写真集】
今回の渡航の記録として写真集を制作しました。

気付いたこと、見つかった課題:

今回、初めて海外に渡航したのですが、抽象的で漠然としていた「ヨーロッパと日本のアートの違い」などという言葉に、自分の実感を持ってイメージを与えることができたのはよかったです。(それが悪いものにならないようとみはる必要がありますが)
渡航全体については、海外が初だったのでもちろん刺激だらけだったのですが、冷静にこれからの人生を通じて、様々な土地の歴史、文化に対して誠実に学んでいきたいと思いました。

渡航を経ての今後の制作活動:

マルセイユは日差しが強く、全身日焼けで大変でした。日焼け止めをしっかり塗って過ごしましょう。
また、旅が自らの多動性によって勝手にニョキニョキと動いてしまいました。それも良いことなのですが、ある場所に止まって、冷静に、ゆっくり考える、じっくり考えを「深める」という時間を、どこかで取れたらいいんだろうなと思いました。
時間をかけて制作に活かしていきます。

本奨学プログラムを利用してみて:

今回、助成していただいたおかげで貴重な経験をたくさんすることができました。現代美術を見るため、そして制作の糧のためにヨーロッパを見ることができて、充実した時間を体験することができました。
今回、渡航して見て体感したことは、これから自分が活動していく上でも必要不可欠なことだと強く思ったので、後輩のためにも、今後もこのプログラムが続いていっていくことを願います。

その上で、今回は、コロナの影響で募集がなくなってから本プログラムが復活した年というのもあって、審査、採択、渡航のスケジュールが密な点は苦労しました。採択決定日から予定されていた渡航日までの期間が短かったため、なかなか準備にとりかかれず準備にも時間を取れませんでした。
また、渡航の予算に関しては、どの程度のお金が入るのかが未定だったため、お金の準備もしづらかったです。今回、強い円安だったこともあって、飛行機代以外は実費というような状態となったため、2ヶ月の渡航の場合、滞在先で寄り掛かれるあてがある状態でないと難しかったです。(もちろん、そういった点もしっかり準備をすべきなのですが…)
また、渡航期間によって助成金額が変わるというシステムですが、期間を伸ばすことによる助成の増額を、ヨーロッパで1日過ごす負担がかなり上回る状態となっていたため(実質滞在費は燃油高による飛行機代増加に取られていたため)、2ヶ月という期間を短期渡航として設定しているのであれば、助成の金額が決まるシステムをもう少しわかりやすい形に変えることはできないかと思いました。
また、実際の助成金額の振り込み日が渡航の終盤という状況だったため、その点も改善されたらよいと思います。

応募段階では、今回、告知から書類を書く期間が短かかったため、0から計画を準備するのが大変でした。しかし大学の助手さん、先生方が最初の段階から渡航直前までしっかり対応してくださったおかげで形にでき、渡航計画を進めることができたのはよかったです。
ただ、本プログラムの選出から渡航までの過程は良いと感じました。特に渡航報告会によって様々な方と交流し、意見し体験を共有しあえたことは嬉しかったです。報告会によって自分の活動を見つめ直し客観視できました。今後の活動によってこの成果を見せていければよいと思います。
今回は本当にありがとうございました。

 

渡航スケジュール:
8/7–14 羽田空港→シャルルドゴール空港 フランス パリ滞在①アトリエ訪問他
8/14–30 フランス マルセイユ滞在 ユニテ・ダビタシオン宿泊。街散策
8/30–9/5 フランス パリ 美術館見学他
9/5–7 ベルギー ブリュッセル
8/7–9/9 オランダアムステルダム 海洋博物館に行く。
9/9–14 ドイツ カッセル ドクメンタを見る
9/14–20 ドイツ ベルリン ベルリンビエンナーレを見る。
9/20–25 プラハ 博物館等を見る
9/25–30 イタリア ヴェネツィア ヴェネツィアビエンナーレを見る 日本着