研究タイトル:
「朝鮮の土着宗教「巫俗」から読み解く大韓民国の過去と現在」
活動内容:
二ヶ月という時間を使って、韓国国内を周遊する旅。韓国という国自体を知って行く上で、文化・歴史・思想・国民性を多様な観点から学ぶことが目的であった。単に史実を追うだけのリサーチにならないよう、韓国人の精神構造を理解するために朝鮮の土着宗教とされる「巫俗」についてリサーチを行いながら、同時に延世大学の韓国語語学堂夏季短期課程を受講。加えて韓国の文化・歴史を学ぶために、現韓国社会に主として信仰される、キリスト教・仏教・儒教(儒学)にゆかりのある人や土地を訪れる。(ソウルでは朝鮮巫俗京畿道総裁・シャーマニストのイ・ソンジェ先生へインタビュー。兼ねてからお会いしたかった尼さんを訪ねに全羅道にある白羊山寺へ訪問等。)ソウル、全州、安東、慶州、晋州、釜山を周りながら美術館や博物館、その他歴史的建造物や土地を巡り現代韓国社会を繋ぐ歴史について学んだ。
気付いたこと、見つかった課題:
今回私が韓国にリサーチをしに行っていた夏、丁度日韓の関係が悪くなっている時期であった。日本の阿部政権不支持者によるデモは毎週末大きな規模で光化門広場にて行われ、同時期に慰安婦問題に関する水曜デモも8月14日に4000回目を迎える大きな節目となっていた。韓国国内を周遊する中で、旅先で出会った韓国の人に自分の素性を話すと百発百中政治の話に持っていかれる程緊張が高まっていた。これまで日本の教育機関で教育を受けてきた私は、生まれて初めて韓国側からの歴史の見解や現代史に関する考え方を知ることとなった。共有する史実が同じであっても立場が違えば異なる見解を持つということを身を持って感じた。今後、自身の制作においても歴史や社会をテーマに扱うことが多々あるかと思うが、自分の立場をしっかり押さえておくことの重要性を知ることとなった。
渡航を経ての今後の制作活動:
私はこれまで韓国国籍でありながらも韓国の文化・歴史を何も知らないことに後ろめたさを感じていた。制作において「日本生まれ日本育ちの韓国人」というアイデンティティを主張し、それに纏わる内容をテーマに制作することが多々あるにもかかわらず、一方(日本)からの見解しか知らないということをいつか変えなければならないと、学部入学初期よりずっと思い続けてきた。この度、晴れて石橋財団油画奨学生に採択され韓国に二ヶ月リサーチ滞在をする機会を得ることとなった。8月15日終戦日の日本と韓国の受け取り方の違いや日本の教科書には載っていない日本朝鮮統治時代の歴史などを知り、これまで自分が主張してきたアイデンティティの在り方をより深く受け止めるきっかけとなった。
本奨学プログラムを利用してみて:
単身で海外渡航をするよりも、より責任感が生まれるので石橋財団奨学プログラムを利用して良かったと思います。単に奨学金による渡航支援を受けること自体、学生側としては行動範囲の可能性が膨らむので有難いプログラムですが、それだけではなく企画・成果報告を通じて奨学生同期の活動を知る機会を得たり、自分でフィードバックをする機会が半強制的に生まれることで自分自身の旅や、旅中に持った見解を深めることが多かったと思います。改善点として、成果報告会の一人当たりの発表時間をもう少し長く持たせてもらえると良かったです。私は一番最後の発表だったので5分以内という短い時間、巻き気味で発表をしたことが少し悔やまれます。
・7月28日 成田空港より渡航。金浦空港着。坡州市へ(1ヶ月間坡州市に滞在しソウルでのリサーチ)/・7月31日 延世大学韓国語語学堂レベル分けテスト/・8月1日 延世大学韓国語語学堂夏季短期課程始業/・8月14日 韓国無形文化遺産、韓国巫俗京畿道総裁、シャーマニストのイ・ソンジェ先生インタビュー/・8月15日 光復節「戦死者を追悼する会」参加/・8月23日 延世大学韓国語語学堂終業/・8月31日〜9月1日 全羅南道長城郡 白羊寺テンプルステイ/・9月1〜9月2日 全州滞在。朝鮮王朝時代の王族李氏についてリサーチ/・9月4日〜9月6日 安東滞在。李氏朝鮮時代の儒学者 李滉のいた陶山書院へ/・9月6日〜9月10日 慶州滞在。南山登山。野外彫刻や仏像について学ぶ/・9月10日〜9月16日 晋州滞在/・9月13日 秋夕。釜山にいる儒教を重んじる親戚の家に秋夕の慣例を見に行く/・9月16日〜9月23日 ソウル滞在/・9月19日 韓国巫俗全国合同礼拝見学/・9月23日〜9月26日 釜山滞在/・9月26日 金海空港より帰国