2019年度短期派遣奨学生〜高野実紅

研究タイトル:
「レーベンスボルンを巡る旅」

氏名:高野実紅
奨学年度:2019年度奨学生
奨学区分:短期派遣枠
滞在期間:2019.8.15 – 9.30
滞在先:ノルウェー(ハーマル・トロンハイム・リレハンメル・フルダルスヴェルク・オスロ・フロム・ベルゲン)、ドイツ(ベルリン・デッサウ・ワイマール・シュタインヘーリング)

活動内容:

4週間をノルウェーで、2週間をドイツで過ごしました。ナチスの国民増強計画「レーベンスボルン」について1年前から調べ、当事者の一人とお会いする予定でしたが、ご高齢のために渡航直前に亡くなったため急遽旅程を変更しました。レーベンスボルンで生まれて親元を離れて暮らした子供たちは、成長の過程でどのように心の喪失感に折り合いをつけて人生を歩んだのかということを知りたくて、施設跡を巡り、レーベンスボルン2世の方や研究者など関係者にインタビューをしました。施設跡はノルウェー国内の各地に点在しているため、バス、鉄道、飛行機、船などを使った移動が多い旅となりました。また、レーベンスボルンの複雑な歴史を現代に伝えるために制作されたゲーム「My Child Lebensborn」の制作会社を訪問してお話しを聞きました。
ドイツでは、100周年を迎えたバウハウスの関連施設を主に見学し、ワイマールバウハウス博物館では図らずもレーベンスボルンとの関連を知ることができました。

気付いたこと、見つかった課題:

自分自身が漠然とした不安感で毎日を生きるのに苦労していたので、レーベンスボルンで生まれて幼くして親元を離れて暮らした子供たち(現在は70代後半)は、成長の過程でどのように心の喪失感や寂しさに折り合いをつけて生きているのかという心の面に注目してリサーチをしていた中、オスロ大学の犯罪学研究室のKnut Erich Papendluf教授が話してくださった「幸運な子供たちは新しい家族を見つけ友達を得て幸せに暮らせるようになったが、一生心の中に喪失感を抱えたまま生きる人たちも多くいる」という話が印象的で、自分にとって一番の収穫でした。
また、レーベンスボルンの理念の基礎にある、基準を満たす優秀な人間を多く作り出すという考え方に、バウハウスの人体の標準化の概念が流用されたことが知れ、興味のある二つの事柄が実はつながっていたことがわかりました。
レーベンスボルンについては記録が少なくわからないことが多いので、個人の心のことになると余計に複雑で知ることが難しかったと感じました。

渡航を経ての今後の制作活動:

長い旅行で心身の調子の不安もありましたが、日本にいる時よりも晴々とした気分でいられることが多く、自分の新しい一面が知れると同時に、普段通り定期的に具合が悪くなることもあったので、不安定な自分のバイオリズムを再認識しました。一人で異国の地にいるとそれが逆に少し心強くもあり、今後はそういった自分の心身の変動とうまく付き合って制作活動を充実させたいと考えるようになりました。
レーベンスボルンを題材に制作することは一旦お休みするつもりですが、関係者の方とのメールのやり取りから含めて非常に多くの学びを得て、今でも反芻しているので、いつか再び深く関わることになる予感がしています。
今回の渡航ではアートフェアやギャラリーを見学することは多くありましたが、現地で作品制作をしたわけではなかったので、今後は海外で制作・発表する機会を作りたいと思っています。

本奨学プログラムを利用してみて:

他の海外派遣制度を利用したことがないので比較ができないのですが、渡航先や期間によっては給付していただける奨学金が少ないと感じるかもしれません。ノルウェーは物価がとても高く、往復航空券も給付していただいた渡航費だけでは買うことができませんでした。しかしアートと直接関係がなさそうな研究テーマでも奨学生に採択していただき、勇気を持って渡航できたので、海外に渡航したいと考える方は活用しない選択肢はないと思います。
奨学金を給付していただけるだけではなく、成果報告展とプレゼンの機会があることは、帰国後に自分の活動を冷静に見つめ直す意味でもとても有意義でした。同時期に海外渡航した他の学生や先輩方と展示を通じて交流できる点もありがたく感じました。できれば学内ではなくアーティゾン美術館で展示をしてみたかったです。
また、他の年度の奨学生とも交流したいと感じました。派遣後の取り組みとして、ちょっとした「海外派遣その後集会」のような催しが公式にあっても面白いと思います。

 

渡航スケジュール:
8月15日 成田空港より渡航
8月16日〜26日 ノルウェー・オスロ空港へ到着、ハーマル、トロンハイム、リレハンメル滞在。
8月26日〜29日 フルダルスヴェルク滞在、レーベンスボルンの跡地の学校を取材、校長先生からお話を伺う。
8月29日〜9月8日 オスロ滞在。
9月2日 ハーマルヘゲームスタジオを取材しに日帰り旅行。
9月3日 国立公文書館にてオスロ大学のKnut Papendorf教授と会いレーベンスボルンについてお話を伺う。
9月4日 Knut Papendorf教授の研究所でお話を伺う。
9月6日 オスロ芸術大学を見学。
9月7日 トロンハイムでレーベンスボルン出身の父を持つMads Nordtvedtさんを訪ね、レーベンスボルンの跡地の住宅を見学。
9月9日〜15日 ドイツへ移動。ベルリン滞在。
9月10日 デッサウへバウハウス博物館等の施設を見学。
9月15日〜18日 ワイマール滞在。バウハウス関連施設の見学。
9月18日〜21日 シュタインヘーリング滞在。レーベンスボルンの跡地の福祉作業所の見学。
9月21日〜9月24日 ノルウェーに戻る。オスロ、フロムに滞在。
9月24日 フロムからベルゲンまで移動。途中、レーベンスボルンの跡地のスタルハイムホテルの見学。
9月24日〜29日 ベルゲン、オスロ滞在。
9月30日 帰国。