2016年度短期派遣奨学生〜青木 理紗

活動内容：

旅の始まりはポーランドのウッチにある美大でグラフィックデザインコースに所属していて、日々規則的な生活の元学校へ行きグラフィック制作を行っていました。その後は3日ほどで次の都市へ行くという移動を重ね、行く先々の文化、建築、土地の歴史的背景や言語に触れながら日々を過ごしました。そういった中で美術の展示や楽器博物館、教会でのコンサート、ライブハウスでのライブやクラブにも1人で足を運んでいました。
行く先々の様子や自分の変化を観察しながら、街のカフェ、都市と都市を繋ぐ長距離バス、国から国に移動できる飛行機の中でPCを開き制作を行っていました。自分の居場所を許してもらえない環境下で音の制作をする、というのが今回の旅の目的であり、それと同時に居場所のない環境下で音の中に自分の居場所を求めていきました。

気付いたこと、見つかった課題：

東欧、主にポーランドを巡っている時に、第二次世界大戦時に起きていた迫害や土地の破壊について、そして現在に続いているその状態を目前にして、歴史・人種・思想・土地柄等にとても強く意識を持ちました。
前半のポーランドを終えた後もプラハ、ベルリンにあるユダヤ人博物館やそれに付随する場所に足を運びました。
過去に海外へ旅をした際は有名な観光地ばかりで日本人観光者にはマイナーな場所を巡ることは無かったので、今回の旅のように歴史や土地について繊細に肌で感じ、帰国後も同じように感じ続けることは初めてでした。
平成の日本で生まれ育った私からすると、東欧の人と関わることはほぼ無いようなものですし、その歴史も教科書で学ぶラインマーカー程の距離感だったので、今回ゆっくり巡ることができて実に様々なことに問や気付きを持てました。そしてどんなに多くの事物を破壊しても、文化は形を変えてでも残っていく特殊なものだと感じました。

渡航を経ての今後の制作活動：

様々な人と出会い、多文化に触れ、日本では外れないリミッターのようなものが無い、というよりは通用しないので気を引き締めつつ自己責任を元に、行動や思考が自由であり無責任に振舞うことができました。そういった状態を“透明人間になる”と私は形容していて、今回の旅の目的は、“多文化の中に透明人間である自身が交差し続け、その中で鳴ってくる音を抽出する”というものでした。その頃音作りは求めるが故に臆病になっていた部分もあり、ベルリンで出会ったアーティストにとてもラフな口調で音作ってみなよと言われたのをきっかけに、今私は透明人間な訳だし旅の目的でもあるしやらねばならないと再確認し、行く先々で音作りに励みました。
今後はヨーロッパでライブを行う予定です。それと欧州の言語に興味が湧きました。音や意味のルーツを学ぶ過程が旅をしている気分になり非常に面白いです。同時に、日本語は独特な言語だということも理解しました。

本奨学プログラムを利用してみて：

この度は奨学生に選抜していただき、誠にありがとうございました。とても自由に旅をさせていただきました。どこかの大学に所属する訳でも無く今回の私の旅の形式のように、居場所がない状態だからこその見える景色や行ってしまう場所が無意識下で恐らくあって、このように自由に時間や場所をアレンジして移動できるというのは特異な環境だったと思います。
拠点が無く手探りな状態の中、重たいけれど必要な荷物の運搬、金銭のやりくり、生命維持のための食事、睡眠、たまに警戒心を解いて心身を労わること、危険回避など、生き物として本能的に鋭く取捨選択する瞬間が多々あり、一人サバンナの中にいる気分でした。過酷な面もありましたが、文化も言語もかけ離れている現地の人に助けてもらうことが何よりもかげがえ無く有り難かったです。そして日本はとても安全で、少し歩けば何軒も連なっている年中無休で24時間営業をしているコンビニエンスストアで100円でおにぎりが買えるというとても住み易く同時に特異な国だと思います。そんな住み易い国で育った私に、このような夢のような経験をさせていただくチャンスを下さった石橋さんと教授陣にもう一度感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました。